プロローグ


「いとしのタシルのみなさん。
 わたしがここを離れてどれほどになるだろう。もう二度とここに来ることはない、と思っていました。
 今わたしがどんなになつかしくうれしいか・・・・・そして悲しいか。
 よいことで来たのならどんなにいいだろう」
セは空を見上げました。
「ごらん、この雪を。もう春だというのに雪は降りつづいている。
 わちふぃーるどに暮すものは太陽を愛し、花や草木とともに生きてきた。
 そのわちふぃーるどの、今までの歴史が消されようとしています。
 遠い昔、アビルトークがわちふぃーるどとアルスに分かれた時、雪の神はわちふぃーるどを
 雪と氷の世界に閉ざしてしまおうと望んでおられた。
 それを救って、今の光あるわちふぃーるどにしたのは・・・・・」
セは、言葉を切るとダヤンを見つめ、歩みよっていくと、その肩を抱きました。
そして、つづけて言いました。
「ここにいるダヤン」
セの言葉にみんなたまげましたが、ダヤンのびっくりしたことといったらありません。
ものも言えないでいるダヤンに、セはやさしく言いました。
「ダヤン、おまえは定められた務めを果たすため、ここにやってきたの。ご苦労だけど、
 おまえにはもう一度旅をしてもらわねばならない。過去へもどる旅をね」
そう言うとセはダヤンの肩をだいたまま、今度はジタンを招きよせ、その肩に手を置きました。
二匹の猫の真ん中に立ち、動物たちにむかってセは話しつづけました。
「そしてジタンがセントニコラウスの指示にしたがって、ダヤンをアビルトーク、過去のわちふぃーるどへ
 送りこむことになっていた。けれどもセントニコラウスはその指示を下せなくなってしまったの。
 悲しいことに雪の神は今すべての邪魔者をのぞき、過去を消して、わちふぃーるどを
 ご自分の望んでおられた雪の世界にしてしまおうと思っておられる。
 ほんとうならば、ダヤンは一瞬のうちに過去にもどれるはずだったのに、ゆっくりと時間をさかのぼって
 いかなくてはならなくなってしまった。
 逆向きに流れる時間を旅するのはとても困難だから、ジタンにもいっしょに行ってもらわねばなりません」
セがジタンのほうをむき、「いいね、ジタン」そういうと、ジタンは大きくうなずきました。
<もちろん。そのために生きてきたのです。>

 

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