時の旅

ダヤンとジタンの時の旅を一緒にたどってみましょう!

出発
初めはおびただしい光の渦があふれ、できたばかりの光の粒がパチパチ体にあたって痛いほどでした。
まぶしくて目も開けていられませんが、魔女の塔の床を蹴って浮かび上がったダヤンが何もしないのに、
翼は勝手に飛んでくれたようです。
時の魔法で作られた宇宙はみるみる広がっていき、小さな光の粒どうしはぐんぐん離れていって、
それぞれ遠いところで星になりました。
今ダヤンとジタンは真っ暗ななか、青白い星がかすかにまたたく空間を飛んでいました。

タイムの居場所
どうやら行きどまりのようで、段々になった広い場所にたくさんの巨大な歯車が集まっているのが見えてきました。
木でこしらえたような歯車を、おおぜいのタイムが規則正しく前脚、後ろ脚でゆっくり歩いて回しています。
岩壁の隙間から出てくるタイムもいれば渡り橋をわたっているタイムもいます。
タシルからやってきたタイムたちもきちんと列を作って階段を登り、歯車にとりついて他のタイムに混じって
まわしはじめました。
「ここがタイムの居場所なのかな」
石の階段に着陸したダヤンはほっとして、まわりを見まわして言いました。
「ああ、まず第一段階は突破だな。タイムの居場所をつきとめた」

時の宇宙
どうやらここは小さな星のようで、ふたりのいるところからは水平線がぐるりと球状に見わたせます。
びっしり星を埋めつくしている丸やとんがり型の屋根、高い塔やちかちか光る丘からは、
この星がかなりの賑わいの街と知れました。
また空ときたら、もっと奇天烈です。まるで川が流れるように色とりどりの雲が流れ、
雲の間からふいに巨大な帆船や飛行船が現れてきては、それぞれ丘や塔に着陸しています。
大きな丸い屋根のある建物からは汽車が発車していくのも見えました。
「すごいや!なんて愉快なところなんだ」浮かれてダヤンは言いました。
「ぼく、時の宇宙ってもっと寂しいところかと思ってた。ほら、気球があがっていくぞ」
ふたりは何をしにここにきたかも忘れ、しばらくの間、夢中で空を見上げました。

イマの港
「ここにはずいぶんたくさんの乗り物があるんだねえ」
ダヤンが真上から今まさに飛び立とうとしている飛行船を見上げながら言いました。
「そりゃあんた」床屋の店先に立ってじろじろ一行を見ていた首の長いトガリネズミのような顔をした
生き物が口を出しました。床屋が多いのもこの星の特徴で、トガリネズミの白い上着の袖口から出ている
腕ははさみのような形をしていました。
「ここはイマの港だよ。イマを通らなくちゃ過去にだって未来にだって行けっこないさ。
 時間の旅をするやつはみんなイマの港から出ていくんだ」

タグポーポー鉄道
ダヤンはわくわくしながら外をながめていました。
小さくなっていくイマの港の星は、とげとげのたくさんあるピンクの爆弾のようでした。
色とりどりの雲がひゅんひゅん流れるなら、汽車は煙を吐いて、長い飛行機雲を引きながら走っていきました。
車内は少し古ぼけてはいるものの、座席は濃い紫のビロードで、背板も窓枠も深緑に塗られた木でできており、
なかなかに風格がありました。

スコシマエ
七面鳥は胸ポケットにさしてあった長いガラス棒をとりだすと、窓を開けて外の風に当てました。
「ごらん」窓から引っこめたガラス棒は緑色に光り<スコシマエ>という文字がくっきり浮きだしていました。
「今、スコシマエのあたりだ。一度汽車から降りるといい」
「そんなことできるの?」びっくりしたジタンとニムルは同時に言いました。
「できるとも。この計りが緑色に光っているうちはね。さあ、荷物をまとめなさい」
ジタンはふたり分の荷物を背負い、ダヤンを抱き上げました。

タグポーポー鉄道終点(アビルトーク崩壊後)
いつのまにか眠ってしまったようです。
「さあ、着いたよ」七面鳥に揺り起こされてふたりが目を覚ましたのはタグポーポー鉄道の終点でした。
翼の紋章のある封筒をジタンにわたしながら七面鳥は言いました。
「これを返しておこう。私の役目はここまでだからね。これによると、きみたちはアビルトーク崩壊の前に
行きたいようだね」
「そうなんです。どうやって行ったらいいか教えてもらえませんか?」ジタンが聞くと、
七面鳥は先に立って汽車を降り、急いでふたりもついていきました。
「ごらん、あっちのほうにぼんやり見えるのが遺跡だ」
遺跡をみつける前に、ふたりは目の前に広がる風景に心を奪われていました。
どこもかしこも青い世界でした。起伏のある砂丘はかすかに紫がかった青で、
砂丘の陰影で濃くなったり、薄くなったりしています。
七面鳥の指し示す方向には青く高い影がいくつか固まって見えていました。
昼というには暗く、夜というにはほの明るい空には黒っぽい雲がかかり、さびしいけれどしんとした美しさのある風景でした。
「あのあたりで時の魔法の世界はおしまいになる。あとはナンニモナイがどこまでもつづいているだけだ。
きみたちはまず遺跡まで行きなさい。いいかい、アビルトーク崩壊前まで行くにはね、過去に吹く風に乗って、
時の虫食い穴を抜けるしかないんだ。過去に吹く風は遺跡のあたりに吹いてる。
遺跡に行って景色のゆがんで見える場所をさがしなさい」

ナンニモナイ
虫食い穴は不安定に膨らんだり縮んだりしていました。
ジタンは握っている手を振りはなすと、虫食い穴にむかってダヤンを思いきり突きとばしました。
ダヤンはあっという間に穴に吸いこまれていき、それと同時に穴はふさがって、ジタンはものすごい力で吹きとばされました。
ジタンはナンニモナイの世界を漂っていました。

*ちょこっと秘話! by 池田先生
全体にジタンの悲しみが漂う巻で、書きながらも、ジタンが気の毒でならなかった。
「イマ」にせよ「スコシマエ」にせよ「ナンニモナイ」にせよ、
カタカナにすることで、本来の意味から独立した雰囲気が出て、日本語って、ホント便利ね。
 
 

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