はじめての冒険


2匹が山を降りて、タシルの街の石の広場にさしかかると、向こうの方に何やら人だかりがしています。
「あらジタン、いいところに来てくれたわ。オルソンさんが大変なの」と言いながら、マーシィが走ってきました。ジタンと館長がマーシィの後について行くと、時計台の下にぶたのオルソンさんが倒れていて、ジタンがしぼった手ぬぐいをオルソンさんの鼻にあてていました。
石畳の道を、太った穴熊の医者ドクがイワンに背負われて走り上ってきます。ドクはイワンの背中から降りると、ぷりぷり怒って言いました。
「まったくこのわにときたら、わしをスパゲッティ皿の前からものも言わずにさらってきたんだぞ。いったい何事だ」
「わたしたちが向こうから来たとき、オルソンさんのブギィーッっていうものすごい悲鳴が聞こえたの」
「急にくるくるまわりだしたよね」
「蜂に刺されたって言ってたぜ」
「うん、何か虫みたいなのが飛んでいったね」
マーシィと、ダヤンとイワンは口々に状況を説明しました。
ドクは聴診器を取りだすと、オルソンさんの診察をはじめました。畑持ちで、街の有力者でもあるオルソンさんの鼻は、もともと立派なものでしたが、今では顔中が鼻であるかのように腫れあがっています。
「ショック症状を起こしているな。何に刺されたんだろう」
ジタンと館長がまた顔を見合わせたとき、「イッピッピピヤ−オウ」という甲高い声が、時計台の屋根の上から聞こえてきました。
みんながいっせいに見上げると、カシガリ山の3人の魔女のうち、一番上のタイムがほうきを手にとんがり屋根のてっぺんに座っていました。
「何に刺されたって?アルスの虫に刺されたんだよ。わたしゃ、巣を見つけて毒虫事典で調べたんだ。ヒマナシって虫さ。アルスの働き蜂の一種なんだ」タイムは一同を見渡し、続けました。「ぐずぐずしてると、ヒマナシはどんどん卵を生むよ。それにヒマナシだけじゃない。セワシ、イソガシ、カローシと次々に生んでいくんだ」
「さされると死ぬの?」マーシィが聞きました。
「死にゃあしないさ。だけど刺されるとそいつの中で、どんどん時間が速くなっていくんだ。時間が食われて、せかせかと生き急いじゃうのさ。てっとりばやくおじさんになって、おじいさんになって。あっ、なんだ、結局死んじゃうんだ」
タイムはげらげら笑いだしましたが、突然ピタリと笑いやむと、まっすぐダヤンを指して恐ろしい声でこう言いました。
「そこの猫。おまえがヒマナシを連れてきたんだ」

 

*ちょこっと秘話! by 池田先生
ヒマナシを考えた時には、「超(スーパー)ウイルス」なんていう本を読みました。
ウイルスっていうのは大昔から生き物と共存してきた凶暴な怪物。
アルスではヒマナシもすっかりニンゲンと共存していたわけです。
 
 

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